静岡県の海でやる引っ掛け釣り(サッカケ、ギャング釣り)についてまとめました。
結論からいうとやっちゃダメです。あと今回は文字ばっかでお堅いです。
引っ掛け釣り 仕掛け
試しに作ってみた

引っ掛け釣りとは

エサやルアーを用いず、群れて泳ぐ魚を針で直接引っ掛ける釣法。
他にも『サッカケ』や『ギャング釣り』などの言い方がある。

僕の身近なエリアでは三保サーフでやる物が有名。
コノシロやサヨリを引っ掛け、それを引っ掛けたまま泳がせておいて大型のスズキや青物を狙う釣り方である。

そしてこの釣りは静岡県内の海では禁止とされている。
※川や湖はまた違ってくる。後述する。


調べたきっかけ

一応禁止なのは知っていたので自分でやったことは一度も無い。
ただ、『なんで禁止なのか』とか『誰が禁止しているのか』とか知らず、誰かから聞いて「マナー的な問題で禁止なのだろう」と思っていた。

しかし、以前ブログを書いた際に何の気なしに調べたらしっかりとルールとして禁止されていたのである。
これはブログに書いてしまったことが申し訳ないというか、恥ずかしかった。

話は変わるが僕は『TSURINEWS』というWebマガジンにも寄稿していて、万年ネタ不足である正しい情報発信に力を入れている。

嘘です。
正直な話そこまで大げさなことは考えていないのだけど、情報発信の機会をチョットだけ多くもらえているので、せっかくならしっかり調べて記事にしてみよう。と考えたのである。

この記事の内容はTSURINEWSの方にも寄稿してあるのだが、せっかくなので自分のブログにもまとめて置いておこうと思う。


調べ方・調査内容

『静岡県 引っ掛け釣り』などで検索すると静岡県HPの『遊漁を楽しむ皆様へ』というページが出てくるのだが、そのページの最後に『経済産業部水産・海洋局水産資源課』という所が問い合わせ先として記載されている。

そちらに電話とメールで連絡を取り、幾度かのやり取りの後にメールでご回答を頂いた。
ご回答頂いたのは以下の内容である。
  1. 引っ掛け釣りはなぜ・いつから禁止されているか
  2. どの様な根拠で禁止されているか
  3. ルアー・エギ等はから鈎に該当するか
  4. フグのカットウ釣りは禁止なのか
  5. 禁止エリアはどこからどこまでか
  6. 許可された釣法で引っ掛かってしまった場合(スレ掛かりなど)違反となるか
  7. 罰則と、取り締まる組織について
  8. その他釣り人に知っておいて欲しいこと

これらの質問にご回答頂いたのだが、メールをそのまま転載するわけにはいかないので僕なりにまとめて、なるべく丁寧に記載していこうと思う。


引っ掛け釣りはなぜ・いつから禁止されているか

まず、前提として海の引っ掛け釣りは『静岡県漁業調整規則 第43条』というルールによって禁止されている。
というか、このルールによって『遊漁者がやっていい漁の方法』が決められているのである。
許可されている漁法は
  1. たも網又はさで網
  2. やす(水中眼鏡を利用する場合を除く。)
  3. は具(火光又は水中眼鏡を利用する場合を除く。)
  4. くまで(幅15センチメートル以下のものに限る。)
  5. 投網(船舶を使用する場合を除く。)
  6. さお釣又は手釣(から釣を除く。)
  7. 徒手採捕
  8. ひき縄釣
以上の8種類。

僕たちが普段『釣り』と言っている、竿とリールを使った漁法は6番が該当する。そしてここに『(から鈎を除く。)』と書いてあるので引っ掛け釣りは禁止なのである。

じゃあこのルール、いつからあるのかというと、昭和26年に大元の『静岡県漁業調整規則』が制定され、この条文は昭和47年に追加されたようである。
※この条文の変遷に関して、担当者の方がわざわざ調べて連絡してくださいました。ありがとうございます。

よってそれぞれの解答は以下の通りとなる。

解答:なぜ禁止か

『静岡県漁業調整規則 第43条』によって決められている、遊漁者がやっていい漁法の中に『から鈎(引っ掛け釣りの仕掛けの事)』が含まれていないから。

正確に表現するならば、『禁止されている』訳では無く『許可されていない』が正しい。

解答:いつから禁止か

昭和47年(1972年)に条文が追加された頃から許可されていない。
この記事執筆時点(令和6年 2024年5月)で50年ほど前の話である。


どのような根拠で禁止されているか

『根拠』と書くと堅苦しいが、要するに「なんでダメなの?」という話である。
ネット上では生存率や倫理的な観点(可哀そうだから)で禁止と書いてある記事も見たが、そうでは無く定義の問題であった。

『釣り』とは漁法の一種である。そして『釣漁法』という定義がしっかり存在する。
これは
釣りは,釣糸の先に釣針をしばり,餌または擬餌等を用いて,魚類をはじめとする水産動物をさそい,釣針にかけて漁獲をおこなう一つの漁法である。
とある。

  1. 糸の先に鈎が付いていて
  2. その鈎に魚を誘うエサとか疑似餌(ルアー)が付いている
この2つの条件が満たされないと『釣り』にならないのである。

引っ掛け釣りは『糸の先に鈎が付いて』いるが、『その鈎に魚を誘うエサとかルアーが付いて』いない。だから釣りでは無い。
漁業の分類上釣りとはならないので許可されていない。

解答

引っ掛け釣りは、『(エサやルアーで)魚類を誘って釣針にかける』漁法では無いので『釣り』という漁法に当たらない。
引っ掛け釣りは、『釣り』では無いから禁止なのである。


ルアー・エギ等はから鈎に該当するか

これが実は禁止でした、とかなると僕にとって大問題なので聞いてみた。

頂いたメールの一部を使わせていただくと
さお釣や手釣等の「釣り漁業」とは、釣糸と釣針を有する漁具を使用し、餌又は疑
似餌等の誘因物により水産動物を誘因し、釣針にかからせ漁獲する受動的な漁業の
ことを言います。

一方で、空釣(引っ掛け釣り)は、鉤引具等を用いて、目的の水産動物をひっかけ
て採捕する能動的な漁業であり、漁業の分類上では釣り漁業には含まれないとされ
ています。
とのこと。

また、1つ上の項目にもあるように
釣りは,釣糸の先に釣針をしばり,餌または擬餌等を用いて,魚類をはじめとする水産動物をさそい,釣針にかけて漁獲をおこなう一つの漁法である。
とある。

誘因(この場合は魚を誘ってダマす事)するかどうかが大事な判断基準になる。
そしてルアーやエギは『疑似餌(疑餌)』に該当するのでちゃんと誘因している。

解答

ルアーやエギは疑似餌に該当し、魚をダマして誘因している。
なので空鈎には該当しないし、禁止されている釣り方にもならない。


フグのカットウ釣りは禁止なのか

静岡県内ではマイナーなフグのカットウ釣り。僕もやったことないからよくわからないのだけど
引っ掛け釣り カットウ釣り
『Honda釣り倶楽部』より
オモリにエサを付け、それに誘われたフグを引っ掛けて釣るオフショアの釣りである。

コレ、引っ掛け釣りの代名詞のように思えてどうなのかと聞いてみたところ意外な答えが返ってきた。
フグのカットウ釣りについても、(略)餌等で誘因しているのであれば「釣り漁業」に該当すると判断され、問題ありません。

なんとOKなのである。
エサで誘っているので『釣り』に該当する、ということらしい。

解答

エサを付けて魚を誘っているので『釣り』になる。『引っ掛け釣り』ではない。
『釣り』なので禁止ではない。


禁止エリアはどこからどこまでか


ザックリしたエリアのイメージ
前提として、引っ掛け釣りを禁止している『静岡県漁業調整規則 第43条』『静岡県海面』でのルールという事を知っていないといけない。

じゃあ静岡県海面ってどこからどこまでなの?って事になるのだが
まず静岡県海面については、基本的には、「陸の県境の延長線で挟まれた静岡県地先海面とその沖合」となりますが、県と県の境や沖合に向かっての距離が明確に定まっているわけではございません。
という回答を頂いた。これ、予備知識が必要で少し難しいと思う。
東西南北で考えるのが分かりやすいだろうか。

東西

神奈川県側と愛知県側の県境。
陸には明確に県境があるが、海には県境のような明確なラインは無いようだ。

海上に県境が無いのは特別な事ではない。
全国的にも明確な境がある所と無い所があって、何かあれば(例えば漁業権などの利害関係)隣り合っている市町村で話し合って決めるものらしい。

なので静岡県海面の東西の境目『陸の県境の延長線上、しかし曖昧』ということになる。

要するに沖側。
沖に向かってどれくらいの距離までが静岡県の管轄なの?という話。

コレも頂いた回答によると明確な距離というのは決まっていないらしい。
現実的に考えて、例えば金州まで行って引っ掛け釣りやる人は居ないと思うのだけど…。

なので静岡県海面の南の境目『各自の判断』ということになる。

余談だがこれは引っ掛け釣りに限っての質問なので、他の何か(例えば漁法とか)は別の規則が定められている可能性が高い。
沖に行けば何でも自由、というわけではないと思う。

どこまでが海でどこからが川になるの?という話。
これが一番明確で、なんと県内の河川一つごとに明確な境が決められていて
海面と内水面の境目
海面と内水面の境界線についてというページにまとめられている。
『境界線の基本的な考え方』というルールのもとに決まっているよう。

なので静岡県海面の北の境目『それぞれの河川ごとの境界線』ということになる。


許可された釣法で引っ掛かってしまった場合(スレ掛かりなど)違反となるか

どんな釣りでもやる上でスレ掛かりはあり得る。
それを違反と言われてしまうと辛いので質問してみた。

これには
スレ掛かりについては、それが餌等によって誘因された結果であれば問題ありませんので、リリース等をする必要はございません。
とご回答を頂いた。

解答

『釣り』の結果魚が引っ掛かってしまった場合は違反にならない。
特にリリース等の必要も(『静岡県漁業調整規則 第43条』上は)必要ない。

ただ、リリース等は資源保護の観点で必要な場合が多いので、規則上必要ないと言っても他のルールやモラルを踏まえて考える必要はある。


罰則と、取り締まる組織について

まず罰則であるが、これは『静岡県漁業調整規則 第58条』に規定されていた。
そこには
(略)43条第1項の規定に違反した者は、科料に処する。
と書かれている。

『科料(かりょう・とがりょう)』とは何かというと
科料とは、刑罰の一種で、「1000円以上1万円未満」の金銭納付を命じられることをいいます。
「1万円未満」という金額からも分かるように、科料は比較的軽い罪に対する刑罰といえます。
刑法では、公然わいせつ罪(刑法第174条)や暴行罪(刑法第208条)、侮辱罪(刑法第231条)、遺失物等横領罪(刑法第254条)などに科料の規定があります。

これらの刑罰を重い順に並べると、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料となり、科料はもっとも軽い刑罰といえます。
科料はもっとも軽い刑罰とはいえ、他の刑罰と同様、言い渡されると前科になります。

前科は戸籍や住民票に記載されることはありませんが、検察庁が管理する前科調書に記載されてしまいます。
なお、前科がつくと就職が制限される職業として、弁護士、医師、教員、公務員などがありますが、制限されるのは「禁錮以上の刑」や「罰金以上の刑」に処せられた場合なので、科料の場合は資格制限の対象とはなりません。
もっとも、就職活動や結婚の際に前科の存在を秘匿していたことが後々問題になるなど、事実上の影響があることは否定できません。
との事であった。
ちなみに似た言葉で『過料(かりょう・あやまちりょう)』というものがあるが、そちらは今回の件とは関係ない。

次に取り締まる組織であるが、これは海上保安庁や警察等が取り締まるという回答を頂いた。

解答:罰則

違反した場合は『科料』に処される。
これは公然わいせつ等と同じ、前科の付く罪である。

趣味を楽しんでいたのに、公然わいせつと同じ扱いの前科者ってイヤじゃないですか?

解答:取り締まる組織

『海上保安庁』や『警察』が行っている。
個人的なイメージだが、密漁とかの取り締まりに近いんじゃないだろうか。


その他釣り人に知っておいて欲しいこと

これは頂いた文面をそのまま掲載したい。
釣りをする際の注意点としては、堤防や離岸堤、港湾等では、安全上の観点等から施設管理者が立入制限をしている場所が多いので、十分ご注意ください。

また、沖でミニボートやシーカヤック等で釣りをされる場合は、漁船等から見えにくいことから、安全のために船の通り道をさけて釣りをしてください。
いずれも定期的に問題になっている上に、釣りの制限に直結する(立入禁止やミニボートの出港禁止)問題である。
個人のモラルに掛かっているので、本当に、各自気を付けたい。

まとめ

人の釣り方にどうこう言うのも野暮だし、釣りは趣味・余暇なので各自好きなやり方で楽しめば良いと思っている。
『引っ掛け釣り』に関わらない人の方が圧倒的に多いと思うし。

ただ、ルールとして明確に禁止になっているものを推奨できないし、コレが問題になってまた釣り場が減ってしまったらとても困る。

また、検索すればこの引っ掛け釣りを解説している記事も残念ながら散見される。
若い子がそれを見て自覚なく真似をし、注意されたり取り締まられたりすればいい気持ちはしないであろう。

せっかくフィッシングボランティア等で釣り人が釣り場を守る気風が高まっている。
僕もこうして記事を書くことで釣り場を守る一助になれば嬉しいと思う。


参考

今回の記事を書くにあたって『静岡県経済産業部水産・海洋局水産資源課』の担当者の方には非常に丁寧なご対応を頂いた。
年度替わりの忙しい中、1遊漁者としての質問にご対応いただきありがとうございました。

また、以下のサイトを参考にさせて頂いた。